近年では歴史において、人物の力量や海外勢力の伸張、技術革新、制度疲労以外に、気候の変動や南米の古代文明崩壊に代表される疫病による影響の存在も認知されてきている。
本書では、その疫病と歴史との関係を述べた嚆矢といえる書。何せ原書は元々 1976 年と 30 年以上前の書なのだから。
筆者の広い分野における知識と知性を感じる。
論理の筋も通っていて、その主張には説得力もある。しかし弱点は、筆者自身が述べるように、物的証拠が少なく、今後見つかる可能性も低い点。どんな疫病が流行したかを直接知る方法はほとんど無い。このままでは科学低方法が適用できる考古学や歴史学の範疇でなくなってしまう。
ほとんどの疫病は文献による確認までだろうし、これまた筆者が述べるように、その記述すら現在と同じ言葉が使われていたとしても、それが現在と同じ意味なのか怪しいのだから。
今後、発達目覚ましい分子生物学による病原体の遺伝子解析を用いた、各地の個体差の比較に因った分岐時期推定等を用いる事で、立証される日が来る事を望む。
古典的名著と呼べるが、冒頭述べたように 30 年も前の書なので、今読むならより範囲が広い『銃、馬、病原菌』をお勧めする。