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書誌情報
- 出版社
- すばる舎
- 最大 No.
- 4937
感想
『歴史を変えた 10 の薬』が書名だが、PROLOGUE に
ここに挙げたのは、医薬の歴史と現在の世界を形づくってきたさまざまな薬物の一部にすぎない。私はただ、本書を読んで、社会のこの魅力的な分野に対する理解を深めていただけたらと願っている
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とある様に、歴史に重要な影響を与えた薬や医療の歴史の中でターニング・ポイントになった薬を取り上げている本ではない
例えば、アヘン及びそこから派生する麻酔薬や麻薬、天然痘ワクチンなど歴史に大きな影響を与えた薬は、大きな分量を割いているが、ペニシリンから始まる抗菌剤の分量はずいぶん少ない
特に後半になると、世界、その中でもとりわけアメリカの
米国人は、世界の人口に占める割合は 5 % にも満たないのに、世界の製薬会社に流れこむお金の 50 % 以上を支払っている
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合法薬物であれ不法薬物であれ、米国では過剰摂取で毎年約 6 万 4000 人の人びとが亡くなっている (訳注:2016 年の記録)。1 年間の犠牲者数はベトナム戦争時の米軍戦死者の数を上回る
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モルヒネやヘロイン、現在の新たな合成オピオイドも同様に、いずれも魅惑的な薬で、痛みを和らげるのが非常に得意なだけでなく、使用者の気分をよくするのも得意で (少なくとも初めは)、開始しやすく、しばらく常用すると、止めるのがひどくむずかしい
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現在の米国は、世界人口の 5 % 未満が暮らしているが、世界のオピオイドの 80 % を消費している
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なぜこんなことになってしまったのだろうか? ある種の役割を果たしているのが、科学だ。製薬会社は依存性のない痛み止めという奇跡の組み合わせを探しつづけているが、目標に到達できないでいる。探求するほどに、より強力でより標的を絞ったオピオイドをみつけるので、利用できるようになるオピオイドと関連薬物の総数は毎年増えつづけている
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といった薬物への過剰な依存や薬物依存問題
1980 年に米国科学アカデミーは、コレステロール値を抑制するという広範な取り組みは妥当な科学的根拠を欠いていて、コレステロールが悪いものだという意見に納得していない研究者が多いということを示す報告を発表した。それでも、かかりつけの医師などに促された大衆はコレステロール値を計測し始め、その結果に基づいて生活習慣を決定し始めた。1980 年代のなかばまでに、コレステロール値は注意深く追跡され、コレステロール値を下げることが国家的な優先事項となり、低脂肪食の大流行時代がやってきた
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2016 年のある研究で、研究者はスタチンを服用している患者 3 万 1000 人を追跡調査し、患者の LDL コレステロール値 (〈悪玉〉といわれるコレステロール) と心疾患の発生率を追跡した。その結果、非常に高い LDL 値を下げることは心疾患の予防に役立った―とはいえ、たったの 1 ポイントだったが。ところが驚いたことに、LDL 値を最低にまで下げた患者、つまり多くのスタチン療法で目標にしている 70 mg/dℓ 未満に下がった患者は、70 ~100 mg/dℓ のあいだに下がっただけの患者と同様の結果だった。むしろ、約 90 mg/dℓ 未満はそれより低くなっても、心臓発作を防ぐ追加的な利益はないようだった。低いコレステロールがかならずしもより良いとは限らなかった
2016 年の別の論文では、19 件の研究が解析された結果、60 歳以上の患者では、より低い LDL コレステロールは全体の死亡率 (つまりあらゆる死因の死亡) を低下させるわけではないことが示された。それどころか、LDL 値が下がるにつれて、心血管死亡はむしろ上昇した。血中の総コレステロール値がより高いことは、ガンに対してなんらかの保護作用がある可能性を示すヒントさえあった。〈LDL‐C (総 LDL コレステロール) が高い高齢患者は LDL‐C が低い高齢患者と同じかそれ以上長生きすることから、私たちの解析はコレステロール仮説の妥当性を疑問視する根拠を提供している〉と論文の著者は結論づけた。
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といった薬の売上にマイナスの情報が届きにくかったり
非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) について心配したことがあっただろうか。私はなかった。ところが最近になって脂肪が蓄積され炎症が起こる肝臓の疾患、NASH について指摘する論文を読んだ。何百万もの米国人に影響を及ぼし、糖尿病や肥満に関連しているが、発見されていないことが多いらしい。一部の症例では重篤な肝損傷につながり、死に至ることもあるという。まもなく、NASH についての話をよく耳にするようになるだろう。なぜなら、これを治療するための薬が 40 種類ほども、製薬会社によって初試験されているところで、そのうち市販されるようになるからだ
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NASH みたいにあなたの知らない病気は存在する。ひどく危険というわけではないが、広範に存在し、薬による予防治療を一生つづけるのに適している病気。それらはいつまでも現れるだろう。ひどく重要だからではなく、お金になるからという理由で。NASH は多くの場合それほど深刻なものではないが、それを治療する薬は、わずかながら利益を得る患者が何年も飲みつづけることによって、儲けを生むだろ
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不安のみを煽る創薬産業の問題の要因への言及が増えている
また次の様に医学への女性の貢献も積極的に書かれているのも本書の特徴
レディ・メアリーはこの謎を突きとめ、1717 年の手紙に記している
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天然痘は、私たちのあいだでは死の危険があって、広く日常的に流行していますが、ここではまったく無害なのです。それは「植え付け」とここの人びとが名付けた手技が発明されたから
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この「植え付け」は、私たちがこんにち「人痘接種」と呼んでいる行為を西洋で初めて記述した例のひとつである
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フランスの大使と話し、大使から、この方法は一般的で、ヨーロッパで温泉につかるのと同じくらい害がないと保証されていたようである
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キャロラインは、試験を行わねばならず、ニューゲート刑務所で囚人の志願者に試験を行った。選ばれた囚人は協力と引き換えに国王の恩赦を受けられる。
数十人の科学者や医師の目の前で、男女それぞれ 3 名の囚人が滞りなく人痘接種を受け、その後、綿密に観察された。数週間のうちに、そのうちの 5 人が軽度の天然痘にかかって回復した
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これら早期の実験で、囚人や孤児を使ったことは、その後 200 年間の医学的試験の方向性を決定づけた。新しい薬を人のグループで試す必要があるとき、手っ取り早いのは、反対する力がほとんどない被験者を使うことだ。さらに、活動や動きをコントロールでき、経時的に観察することもできる。囚人や孤児は完璧な被験者とみなされていた。のちの精神科の患者や兵士でも同じだ。病院に閉じこめられた患者はもうひとつの選択肢だ。歴史的な観点でいうと、医師がインフォームドコンセントなどについて気づかうようになったのはほんの最近のことなのである
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これは歴史的な瞬間だ。囚人と孤児に行われたそれらの試験は、現在私たちが「臨床試験」と呼んでいる初の試験だった
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印象的な箇所
1880 年代の大半の人びとは、自己判断で薬を飲んでいて、それは誰にも奪うことのできない当然の権利だと考えていた
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ガン治療薬とされていた放射線を帯びた水薬から不眠症のためのアヘン入りのシロップまで、なんでも手に入れることができた。影響を受けるのはあなたの身体なのだから、誰もそうするなという権利はなかった
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アメリカの自由の範囲は本当に広い
1729 年のある報告によると、英国で行われた人痘接種を受けた 897 人のうち、17 人が死亡した。50 人中一人というこの死亡率は、自然伝播による天然痘の 1/4 という死亡の確率よりはるかに良かったため、多くの著名な医師はこの新たな手技を後押ししつづけた。ところが一般市民の一部は、生死を決定する力を持つのは神のみであるがゆえに、人痘接種は反キリスト教的だと主張する聖職者に励まされ、人痘接種から遠ざかった
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1790 年代、ジェスティが家族に牛痘のワクチンを施してから数十年後、ジェンナーは慎重に科学的な研究を行った。牛痘によるワクチン接種は天然痘の人痘接種よりずっと安全でより効果があることを、世間の人に信じさせるために必要な研究だった。
ジェンナーこそが、最初は自分のアイデアを攻撃されたものの、最終的には受けいれられ、世界的な名声を得た人物だ。科学者のフランシス・ゴルトンがのちに語っているとおり、〈科学の世界の名声は、最初に概念を思いついた人ではなく、それを世の中に信じさせた人が得るものだ〉
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天然痘はあらゆる殺人的病魔のうちでもっとも強力だが、根絶を目指すうってつけの候補でもあった。
その理由のひとつが、感染患者を追跡しやすかったことである。数日後に症状が現れるため、広く伝播するまえに患者を特定し隔離することができた
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また、ヒトに感染する株がほかの動物には感染しないという事実も重要だった。ほかの動物に感染するウイルスの場合、動物を宿主にして、ヒトに再感染する機会をうかがうようにその動物の体内に隠れている可能性がある。が、天然痘ではそういうことがほぼなかった (たとえば黄熱病はヒトからサルに感染し、その後ふたたびサルからヒトへ感染することがある)。
3 つめの理由は、近年の天然痘ワクチンはジェンナーの牛痘の接種と比べてずっと効果が高く、扱いが簡単かつ安全で、短期間に大きな集団を保護することがたやすくできることである
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ワクチン接種反対活動が消えたという意味ではない。むしろ、インターネットを通じて広がっているうわさや不安感に刺激され、運動は過去の世紀より激しくなっている。その理由のひとつは、ワクチン接種の成功にある。現在ワクチンが予防している疾患は、ワクチンによって過去のものにされているため、たいていは、恐怖心を呼びおこさず、害のない幽霊のような存在になっている。
こんにち生きているほとんどの人びとは、これまでに天然痘やジフテリア、ポリオの症例をみたことがない。殺人伝染病によって、レディ・メアリーのように弟を、ジャネット・パーカーの母のように娘を失ったことがない。
私たちのそれらの病気に対する危機感は小さくなり、とうとうワクチンの利益が小さく思え、ワクチンから生じるあいまいなリスクのほうが大きく思えるほどになってしまったのだ
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このワクチン忌避の問題は今も変わらない
クロラールは歴史のなかで重要な位置を占めている。最初に広く利用された完全な合成薬であり、新たな境地を開いたのだ。クロラールは、研究室で試験管を片手に研究している科学者が、天然原料に由来する薬と同じかそれ以上に強力な薬を作りだせることを実証した
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サルファ剤はそれ以上の役割も果たした。より強力な薬剤をより多く発見するための新しいシステムの方向性も指し示したのだ。
潤沢な資金を使った大企業らしいアプローチを実現することによって、バイエルは最初の現代的な製薬会社のひとつという地位を確固たるものにした。ここで信頼を得たからこそ、バイエルは長期的に考え、大きな賭けにも打ってでることができ、クラレルのすばらしい分子操作や、ドーマクの効果的な試験システムや、医師の指導の下で、専用の研究調査ラボや動物試験施設を組み合わせたシステムの建造に意欲的に投資したのだ。これは、こんにちの複数の巨大製薬会社の下地となっている
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