読まずに溜まっていたメルマガを読む。その中の JMM の ケニア在住家畜獣医滝田明日香さんのマサイマラ・レポート 2008/07/31 版は (2008/08/04 現在、まだ WEB では該当記事のバック・ナンバーが見れない)、次の文章で結ばれていた。
かわいそうな動物の病気を治療して、その動物が完治して飼い主にありがとうと言われるのは、確かに心温まると思う。健康な犬が病気にならないようにワクチンを打って、健康が家畜が病気にならないようにちゃんとした生活環境を与えるよう飼い主にレクチャー。そして、健康な家畜が肉食獣に殺されないように、放牧のスタイルや民家の作りなどをチェックして、害獣コントロールを重視する。はっきり言って、私のやっている仕事は、かなり地味な仕事だと思う。ワイヤー罠で怪我したゾウを豪快に麻酔銃で打って治療する獣医さんは憧れのまなざしを受けるけど、地味にパトロールにでてワイヤー罠を何千個も回収するレンジャーは、舞台裏で黙々とブッシュを歩き回っているのと同じこと。私は原因となる要素をなくすアプローチが、何よりもpracticalで、人や動物の為になると信じている。
これはケニアにおける人と動物の関係の話である。しかし、これは日本の医療においても同じことでは無いだろうか? と思った。
- 生物は、病気に罹ってから対処するより、病気に罹らないように予防するほうが、時間的、経済的どちらであれコストが低くなる
- 生物は個々の個体毎に予防するのではなく、その集団全体で病気に罹らない環境においたほうが全体の利益になる
こう書くと、多くの人は当たり前だと考える。しかしその実、この当たり前の事が、ヒトの世は意外となされていないのではないか? つまり
- 各々対処医療より、予防医療のほうが効果的である。
にも拘らず、対処医療、つまり通常の医療行為は多くの国庫負担があるが、予防医療については皆無。特に乳幼児医療、老人医療は予防医療にこそ力を入れるべきではないか?
例えば、妊婦、乳幼児検診は全部無料化にすべきではないか? 方法としては、世帯収入 1000 万円以上有料など、何処かで線引きしても良いと思うが、お金が無いために受診を躊躇するようなことが起きるのは、何処か間違っているだろう。
またそうすることにより、妊婦の救急病院の盥回しが減る。そもそも救急搬送自体減る気がする。(妊婦が搬送先を探しているうちに亡くなった事件では、医療機関が受け入れ拒否した一因に、乳幼児検診を受けていなかったことがあるらしい)
極端なこととして、延命だけを目的とするような、健康に生活する期間を延ばすことが期待出来ない医療行為は、家族が希望しても禁止すべきではないのか? リソースは有限である。
- 現在の公衆衛生は正しいのか?
例えば、新型インフルエンザに対処するために抗ウイルス薬タミフルの備蓄増加を検討するらしい。しかし、薬で対処するより、感染者を増やさない、最悪パンデミックを起こさない事が肝要である。そしてその為には、感染者、およびその疑いのある人を隔離する必要がある。しかしその為の
- 法整備は出来ているのか?
- 医療機関、関係省庁の連絡システムは出来上がっているのか?
SARS の時、日本に感染者は出なかった。しかしその疑いがかかった人がいた。(以下、随分前の事もあり、調べなおしていないので、事実誤認の部分があるかもしれないが、概要は次の通りである)
この人は、関係者の勧めで検査を受け、陰性であった。普通なら「あ～、良かった」で終わりであるが、そうはならなかった。前述の通り、この人は関係者の勧めに従い検査を受けた、つまり善良な国民である。しかし検査の結果が陰性であったために、その検査費用などは通常の医療と同じく、この人自身が払う事になった。つまり、陽性であった場合は、隔離できる代わりに治療費が公費から出るが、疑いはあったが陰性のため公費支出が出来なかったのである。
これは、おかしい。特定の伝染病に関しては、全体の利益を考え、疑いのある人も一定期間は隔離できるようにする代わり、たとえ後に陰性と解っても医療費は公費から払うようにすべきである。そうしないと、「疑いがあるだけで、陰性になったとき医療費を払えない」と拒否された結果、後に「やはりあの人は陽性でした」ということは起こり得、最悪パンデミックである。
かの現代看護の考え方を確立したナイチンゲールも、クリミア戦争後帰国し、自分の看護方法に間違いがあったこと、更に公衆衛生の大切さを知り、随分悩んだそうである。
そして、目立たないことをやり続けることが、実は医療費も含めた社会全体のコスト削減、リソースの有効利用に繋がると思う。その前に社会全体に対する「目立たないこと」の効果について、アナウンスが必要かもしれないが....。